本当はね。
- 2018.09.14 Friday
- 20:19
いつもの病院へ行って、いつもの再診。
最後は必ず採血室で血液採取をしてもらうのだが……
この日は、どういうわけか、すごい混雑していて、いつもだったら待つこともない中央採血室前で、しばらく順番待ち。
ボケッと廊下の長椅子に座っていたら、
「ささなおさん?」
と、声をかけられて、顔を上げると、そこにいたのは、神経内科に勤務する、医療カウンセラーのKさんだった。
「あ、Kさん……おはようございます」
と、私は言ったまま、しばらく言葉がなくて……Kさんの顔を見たら、なんだか安心したのか……涙が出てきた。
Kさんは私の顔がみるみるうちに変わっていったのにすぐに気づいてくれて、その場に腰を下ろして、視線を合わせてくれて、膝の上に手を置いてくれた。これが、Kさんのいつものスタイルだ。廊下で声をかけてもらうと、Kさんはいつも、こうしてくれる。
「ご、ごめんなさい…いきなり泣いちゃって……もう…Kさんの顔見たら……」
「ん、大丈夫。最近、どうしているかなって思っていたのよ、私も。どうしたの?」
「…Kさ〜ん……」
ダメだ、周囲に人がいるのに。すると、Kさん、ぽんと膝を軽く叩いてくれた。
「今日はちょっと予定が詰まっているから難しいけれど……来週、空いている日、あるかな?」
アタマの中で、ざっと予定と仕事のシフトを思い返して、とある曜日を言うと、Kさんが自分の手帳を出して、
「あ、うん。その日は私、大丈夫よ。じゃ、その日の午前中に一度、連絡くれるかな?それで、午後、久しぶりにお話ししましょうか。ね?」
と、言ってくれた。
「いいんですか?」
「もちろんですよ」
ニコッと笑ってくれる。それが、とても嬉しかった。
Kさんとも1年ちょっとのおつきあいということになる。
がん患者の集いに初めて行った時、話が終わってからも、椅子に座ってぼんやりしていた私に声をかけてくれたのがKさんだった。
人の話しを聞くことがKさんのお仕事。
総合病院という大きな病院だから、外来患者さんはもちろんのこと、入院患者さんのところへ行くことも多いという。
なんとなく遠慮していた私に、Kさんが言ってくれた。
「遠慮なんていらないんです。私たちには。それは、A先生や看護師さんたちも言ってくれていると思うのよ。患者さんって、いくつかのタイプに分けられてね、遠慮して話してくれない人と、話しをしてもなかなか本音をしゃべってくれない人、そして、思いっきり話しをしてくれる人とか……色々いるんですよ。私も、こういう仕事に就いてから、改めて色々、勉強させてもらっているんですけれどね。ねぇ、ささなおさん、しゃべっちゃいましょうよ。無理しなくていいの」
あまりにも優しく響いた声に、通院・治療やら、精神面での凹み具合、生活面での心配ごとで疲れていたであろう私は、初めて号泣して以来、Kさんのところへは時々、足を運ぶようにしていたのだが、ここ数ヶ月、色々……
本当はKさんと話しをしたくて仕方なかったのだ。
この日、バッタリ会ったのは、偶然ではないのかもしれない。
そういう日だったのかもしれない。
来週、お会いする約束をすると、Kさんは、
「じゃあね」
と、立ち上がり、パタパタと入院病棟へと歩いて行った。
たくさんの患者さんを相手にしている……そういうお仕事だから大変だろうと思う。
でも、この日、お会いできたのは……偶然ではない、きっと。
Kさん、来週、行きますね。