Thank you『AVANTI』〜サタデーウエイティングバー『アヴァンティ』@東京ミッドタウン〜
- 2013.03.31 Sunday
- 21:20
東京、元麻布・仙台坂……土曜日の夕方、道に迷ってしまった私が周囲を見回していると、カツン、コツンと響く靴音が聞こえて、そして自分のとなりで静かにおさまった。直後、話しかけてくる男性の声。
「おや?もしかして、AVANTIをお探しですか?いや、私もね、これから行こうとしていたところなのですよ。ご一緒しましょう」
穏やかに話しかけてくる、初老の男性。身なりもきちんとしているので、どこかの紳士なのだろうか。にこやかにほほ笑んで、さりげなく私の隣について一緒に歩き出した。
「ほら、見えてきました……さぁ、私が扉をお開けしましょう」
紳士がゆっくりと扉を開けると、そこでは、「東京一の日常会話」が交わされていた……
21年間続いた、TOKYO-FM(JFN系)の長寿番組「サタデー・ウエイティングバー『アヴァンティ』」、ついに放送に終止符を打たれるときがきてしまいました。
それは、突然のことで……いや、ちょっと前から予感はしていたのですが……
このブログでは書いていませんでしたが、私はこの『アヴァンティ』の大ファンで、長野の実家にいるころ……そう、ちょうどオトナと呼ばれる年齢を越えたころからずっと、聴いていたラジオ番組でした。
2013年3月30日、六本木の東京ミッドタウン・ガレリアには、かなり早い時間からファンの皆さんが詰めかけていたんだとか。私もお昼前に到着したのですけれど、すでに人が並んでおりまして……早目に行って正解でした。
協賛がサントリーということもあり(番組のスポンサーでもあります)、今回はバーボン・JIM BEAMを全面に押し出してのラストイベント。
『アヴァンティ』21年の歴史の中で、単独でのイベントというのは最初で最後のものになります(毎年、夏に行われている「麻布十番まつり」の屋台は別よ)。
JIM BEAMを使ったカクテル4種類(ソフトドリンクもあります)と、フードが出されたのですけれど、これが破格のお値段での提供。カクテル4種類はすべて1杯200円!フードはひとつ400円なのですが、ドリンクとフードをセットにすると500円!
途中から、バーテンダー・スタンさんもバーカウンターにやってきて、みなさんにごあいさつ。
とても素敵な笑顔で、とってもダンディで……あたたかい眼で。
自分ももちろん、ごあいさつさせていただきました。
さて、会場の件は、Twitterやフェイスブックなどでも詳細に上げてくださっている方もいたし(Togetterまとめなんかもあるよ)、その詳細はちょっと割愛させていただきますが……とにかく、時間を追うごとにどんどん、人が増えていくのがよくわかりました。
放送が始まる1時間くらい前にはもう、会場の中には入りきれず(というか、あのキャパじゃ絶対に無理だ!)、2階、3階の部分や、非常に寒いというのに、外にあるテラス席にも人が集まり始めて……(圧倒的に男性が多かったのには、やはりなーという思いもありましたが)
本当は、ひとつひとつのテーブルにラジオが置かれるはずだったのですが、あまりの人の多さに、それができなかったようです(並んでいた時にスタッフさんが教えてくれました)。
そして、夕方17時。
音響さんがボリュームをあげてくれたのでしょう、響き渡る声……
数百人単位で聴き耳を立てるという、非常にシュールな光景が、そこにはありました。
だけど、みんながじっと……スピーカーから流れてくる、ひとつひとつを聞き逃すまいと……
「アンジェロ、ごちそうさま」
「いってらっしゃいませ、チャオ!」
いつものように、AVANTIから去っていく教授……また来週来るよ、そう言い残して。
……自然と湧き上がる拍手、拍手、拍手。鳴りやまなかった拍手。
その後……一瞬の静けさの中を……カツン、コツンと……聞き覚えのある靴音が会場に響き渡りました。
カツン、コツン、カツ……
「ああ、ひょっとしてアヴァンティをお探しですか……?よかったらご案内しましょうか。いえね、私もあの店に行く途中なんですよ……東京は元麻布・仙台坂のあるこの地域は、古くからの屋敷町。そして、この路地を曲がった先の、ほら、あそこ……あそこが、お探しのレストラン『アヴァンティ』。なんとも目立たない入口ですが、土曜日の常連客が織りなす日常会話、聞き逃したくないばっかりに、つい、足が向いてしまうんです。さぁ、着きましたよ。私が扉をお開けしましょう」
ギギィ……ガチャ……
「また、お会いしましたね」
そして、ステージに「教授」が現れました。
このフレーズを生で、その場で聴ける日が来るとは……!
もう、これだけで大感激!涙が出てきたのは、私だけではないと思います。
懐かしいフレーズ……!そうそう、このオープニングが、とても懐かしい。とてもしっくりとくる……!
だけど、この懐かしいフレーズが……ラストイベントの始まりでもありました。
「教授」がお好きな、フランク・シナトラのナンバーや、ルイ・アームストロングのモノマネ入りでの生歌。生演奏です。
エンターテイナーでもある「教授」の素敵な歌声……ラジオでは何度かお聞きしたけれど、こうして、生で……お酒を飲みながら聞ける、その場にいることが出来るなんて、なんてシアワセなことなんだろう。
そう、ここは『AVANTI』。東京一の日常会話が聴けるところ……
時々、笑いを交えながら、思い出話をしてくださいながら、何度も何度も、「教授」は涙を拭いていらっしゃいました。
「また、アヴァンティに行きたいな……」
涙声だったのを、私ははっきり、聞きました。教授、本当に泣いていらっしゃった。本当に、あのお店を愛していらっしゃったんだ……と。
スタンさんもステージに上がって、そして「教授」の音頭での、
「乾杯!」
その場にいた全員に「教授」は、何度もお礼を言っていらっしゃった。そして、この言葉も。
「いつか、お教えしましょう。あのお店を」
AVANTIは、まだあるんだよ。放送が終わってしまっただけでね。
土曜日の夕方、東京は元麻布・仙台坂で道に迷っているあなたのそばで、靴音が聞こえたら……
きっと、それは「教授」が声をかけてくれる「前触れ」。
「おや?ひょっとして、AVANTIをお探しですか?私も行こうとしていたんですよ、ご一緒しましょう」
本当にありがとう、ありがとう……
また、いつか……