お守り。

  • 2017.08.31 Thursday
  • 22:56

首都圏に戻る新幹線の中、手にしていたのは小さなお守り。

これは、今回の帰省の時に、母が手渡してくれたものだ。

 

私がいつも、肌身離さず身に着けているお守りがある。

これは私がひとめ惚れして手に入れたもので、少し重みがあるものだけれど、ペンダントにして、ずっと身に着けている。

今回の病気で入院しているときも、ずっとそばにいてもらった。

 

母が渡してくれた小さなお守りと仲良くしてもらわないとね。

よろしくね。

 

 

 

新しい症状が出てきて、薬を処方してもらったんだが、これがまたかなり眠くなるもの。少し頭痛も出てくる。

症状を抑えるためには仕方ないものなんだけれど、残薬感がすごい。

それでも、楽になるのであれば、という思いのほうが強いからなぁ。

 

しばらくは様子をみるしかないか……

毎回、繰り返されるけれど。

  • 2017.08.29 Tuesday
  • 22:37

実家にいる日を一日、伸ばした。まぁ、急ぐこともないし……

 

さっき、荷物をまとめていたら、祖母が気づいたらしい。

「帰るんか?」

「うん。帰るよ。病院に行かないといけないからね」

超高齢の祖母には難しいことを言ってもわからないことも多いので、私が実家に来るのは、病院の先生からお許しが出た時だよ、と言ってある。帰るのも、病院へ帰るんだよということになっている。一応、私の病気のことは話してあるので、それは覚えてくれているみたいだ。

「帰るんか……」

すっごいがっかりして、肩を落として呟く祖母。これがホントに、がっかり……というのがわかるくらいに肩を落とすんだよ。マンガみたいにがっかりする。

実家に帰ってくるときに、必ずこれは繰り返されるんだけれど、でも、これにはホントに申し訳ない気持ちになる。

「病院の先生に怒られちゃうからね」

「ほうか(そうか)……帰るんか…」

がっかり……あー、ごめん、ばあちゃん。ホントにごめん。

すごいがっかりしている祖母を見て、少し笑っていた母が言う。

「また来るからさ。それまで待っていようね」

というと、

「うん」

と頷いてくれる。まぁ、しばらくすると、また忘れちゃうんだけれど……

私は初孫だから、随分とかわいがってもらった。20年以上前に亡くなった祖父にもかわいがってもらった。

祖母は今、99歳。来年、年が明ければ100歳だ。

まだらに認知症になっている部分があるから、まだ自分の意思や考えを伝えてくれるから……暴れることもないし、暴言吐くこともない。かなりゆっくりだけれど、自分の足で歩くこともできるし……穏やかに日々を過ごしている。

 

出来るだけ、元気でいてね、ばあちゃん。

また来るからね。

 

近所を歩く。

  • 2017.08.26 Saturday
  • 20:23

実家の近所を歩く。

 

暑いといえば暑いんだが、風が吹いているだけマシかもしれない。その風が、首都圏とはだいぶ違って感じる。

遠くに見えるは、戸隠山。ふもとのスキー場が筋になって見える。空を見上げると、雲の流れは少し速いようだ。

リンゴ畑だったり、ブドウ畑だったところが荒れ放題になっていたり、町工場があったところに一戸建ての住宅が建っていたり……10年と少し、この地域を離れているけれど、帰るたびに景色がどんどん変わっていく。仕方ないなとは思うけれど、でも、同時にさみしくなってくるというか……過疎化が進んでいるんだなというのも否めない。

 

クルマがないと暮らせない場所だから、スーパーにしろ、コンビニにしても駐車場はそこそこ、広い。

駐車場の中のクルマ……いわゆる、ミニバンタイプが多い気がする。

運転している人は高齢の人が多いと感じる。クルマが「足」なのだ。

 

少し大きな県道があるので、交通量はそこそこ、多い。

しかも、近所には高速のインターチェンジもある。

 

スーパーから、歩いて実家に戻る。

手足の痺れと両手指関節の痛みが強く出ているけれど、まぁ、仕方ない。

着替えてから、縁側に座って、買ってきたアイスを食べる。

実家でお留守番。

 

静かな、家の中、そして、家の周囲。

青空、目の前には山、畑……

でも、遠くから聞こえるのは、農作業をしているガーデントラクターの音やスピードスプレヤーの音……

 

ここが、自分のふるさと。

色々ね、あるんですよ。

  • 2017.08.24 Thursday
  • 19:57

やっと、ようやく晴れたと思ったら、すごい暑いんですが……

 

荷物をまとめて、電車を乗り継いで、東京駅へ。

平日の夕方、早めだから大丈夫かなと思ったが、意外と混んできた。そろそろ、夏休みも終わりだからだろうか、子供連れの姿も多いかな。アイスコーヒーを買って、新幹線に乗る。久しぶりに実家に戻ることになったから。

今回の実家でのミッションは「留守番」。

抗がん剤の治療が終わって2か月ちょっと経つ。実家とかながわの往復をしていた数か月、色々……あったんだけれどね。治療が終わっても、なんやかんやで病院へ足を運ぶことが多い。再診もあるし、新しい症状も出てきているから。

それだけの病気なんだと、改めて思う。

 

新幹線の窓から外を見ると、どんどんと暗くなってきて、街の灯りが見えてくる。

私が、ひとりで首都圏に暮らすようになって、10数年。新幹線が通ったのが1997年だったはずだ。

それまでは特急で3時間近くかけて、上野駅まで出てきたものだ。

今は、新幹線で2時間もかからない。旅の情緒もなにもないけれど……

 

まだまだ、気持ち的には、低空飛行気味。

それでも……それでも、顔を上げていかなとね……無理矢理、元気を出すのもナンだけどさ。

 

まだ……どこかで、なにかが引っかかっている。

なんだろうね……もやもやする。

それが、言葉や文章にできたら……もっと、気が楽になるだろうか……

 

手足の痺れ、指関節の痛み……

 

なりたくてなったわけじゃないよ……

病気なんて……誰だって、なりたくてなったわけではない。

そういった人の気持ちがわからないなら、余計な口を出さないほうがいい。

 

何度でも繰り返して言ってやるよ。

 

その立場になってみなきゃ、わからないさ。

自分がその立場になった時に、泣き言、いうなよ?

何をしていいのかわからない。

  • 2017.08.18 Friday
  • 21:12

なにかに夢中になれる……今はそういうのが、みつからない。

うたうことについても、少し考えたいことがあり、今は家でできる基礎練習以外は、特に何もしていない。

これについては、もう少し時間がかかりそうなんだよな…どうしても、相手があることなので、モノゴトが片付くというか自分の中で決心がつくまで、整理するまでは、もう少しかかりそう。テレビやドラマ、アニメはもともと、あまり見ないので……かといって、ネットゲームなどもやるわけじゃなし。

集中力が切れるというのか、なにか、勢いがないっていうのか……「やる気」そのものを失っている今は、無理して何かに夢中にならなくてもいいんだろうけれどね。

 

まぁ……色々、複雑な気持ちを抱えているのは確かだ。

 

いろんな意味で、勝ち負けの問題じゃないとは思いながらも、それらにこだわってしまうのは、どうも……育ってきた環境にもよるんじゃないかと思っている。

やたらと、勝ち負けにこだわってしまう……そうじゃない、違うんだと自分で自分に言い聞かせても、どこかでわだかまっているというのか、ひっかかっているというのだろうか。

あと……先日、とあるDVDを見ていて、ふっと気づいたことがあって……それが妙に「腑に落ちた」。

自分がこだわっている「負の部分」が、一体何なのか。なんとなくだが、自分の中で繋がった気がするんだよね。

 

今は、特に何か……夢中になれるものを作らなくてもいいだろう……

無理矢理作っても、面白くないよね。

 

だけどさ……置いてけぼりを食らったような感じがして、やっぱり……嫌なんだよな、悔しいんだよ……

ある種の挫折感を覚えているというのだろうか。

 

わかってもらおうとは思わないけれど……

 

あーあ、なんにも考えたくないなぁ……

悩みたくないよ……重苦しいのは嫌なんだ、今は、特に。

 

今の病気が、いろんなことの引き金になっているのは否めない。
それだけじゃないんだろうけれど。

 

……どうしたらいいんだろう。

正直、疲れている……

世の中、思い通りにはならんのよ。

  • 2017.08.17 Thursday
  • 14:46

派遣元の担当者に定期連絡をしたときのこと。

長くお休みさせてもらっているのだが、そろそろ仕事復帰のめどをつけないとならないし、自分も少し仕事をすれば、また気持ちが変わるだろうということもあり…

仕事柄、今が繁忙期の勤務先のことを聞いてみると、どうやら、人手不足も甚だしい状態らしく……まぁ、そうだろうなぁ…私が仕事をさせてもらっている当時から、とにかく人が足りないとボヤいていた勤務先の主任を思い出す。24時間稼働の仕事なので、部署には必ず、誰かがいることになるが……ううむ。

復帰するといっても、最初からフルタイムで仕事ができるわけもなく、時短でお願いすることにした。週に何回、一日の勤務時間などを派遣元の担当と話しを詰めてみる。一応、こちらから提案させてもらい、勤務先へ提出して、都合を合わせるということになる。休養をいただく前は、11時〜20時という時間帯だったが、これをずらしてもらえないかということも提案させてもらう予定だ。万が一のことも考えて、できれば夕方、早めに帰宅できる時間をお願いしたいと。

どこまで融通が利くかはわからないけれど、このあたりは相談次第ということになる。あとは、営業担当の腕にお任せだ。

 

それにしても……

 

色々言いたいこともあるけれど(苦笑)、時間を置くしかないんだろうなっていうモノゴトも多いよね、世の中って。

私もいろんな人に出会ってきたけれど、この年齢になってこれほど、いろんな意味で苦しむとは思ってもみなかった。

若干のコミュ障でもあるんだろうな、私は。なんでもかんでも、そういった言葉でくくるのはどうかと思うけれど。

 

それでも、だいぶ……一時的なものは、なんとか治まった状態。今は、沈静化しているけれど。

一番の特効薬……まだまだ、先の話しになりそうだわ……

 

それでも、この先は少しだけ、自分の思うことをもう少し、言動に反映させていけたらいいなとは思うんだけれどね。

「自由」と「好き勝手」は違うってことも……理解した上でのことだけれどさ。

今になって……

  • 2017.08.15 Tuesday
  • 18:26

朝、起きて……目覚めが悪いというか、後味が悪いというか。

今頃になって、病気が発覚したころのこととか、入院・手術したころのことを夢で見ているようだ。

夢だから、覚えているものや覚えていないものがあるようで……そのあたりは、まぁ、仕方ない。

私の見る夢っていうのは、ふつうの夢と違うらしい。

というのは、ふつう、人が見る「夢」は、どこか歪んでいたり、なんだかわけのわからない方向へ進んでいくことが多いというが、私がみる「夢」は、体験・経験してきたものがそのまま、夢に現れることが多い。もちろん、どこか歪んでいる・おかしいところがある夢を見ることも多いと思うが……覚えているものと覚えていないものがあるんだよなー…ま、夢だからね。いいんだけれど。

 

治療が終わり、少し落ち着いた今の状況で、ついつい、振り返ってしまうことも多く、今になって「恐怖心」がわいてくることも。

うまく言葉にはできないんだけれど、病気のこととか調べたりして……怖いという気持ちが、今になって襲ってくることもある。

これ、わかってもらえるかな……うまく伝わるだろうか。

心理カウンセラーのKさんが言っていた。

「今はそういう時期になっているんだと思うんですよ。過敏になっているところもあるかもしれません」

これらはひとつひとつ、乗り越えていくしかない。

そう、副作用と同じで、ひとつひとつ、乗り越えていくしかないのだ。

 

経験してみないとわからない、理解できないことも多いと思う。

 

夢の中で、身体の痛みに耐えようとしている自分がいるんだよ……

手術後のICUで、全身の痛みと闘う自分が。

 

そうすると、目が覚めた時、おなかの手術跡が痛い。全身が強張っている。

不思議だなとは思うけれど、精神面と身体は、やっぱり繋がっているんだねぇ…と、思うよ。

 

たぶん、これからも、時々、これらの夢を見るんだろうな。

なにしろ、20数年前の交通事故ですら、今でも時々、夢に見るのだから。

笑うことも大事ね。

  • 2017.08.13 Sunday
  • 12:27

今週アタマに、数少ない友人・Mちゃんから連絡が入った。

なんでも、週末に東京グローブ座で行われる某ステージを観に行こうと思っていたら、急遽仕事が入ってしまったそうで、チケットが宙に浮いた状態になってしまったんだとか。

「最近、ずっと凹んでいるんじゃないの?たまには、くだらないコントとか見てさ、笑っておいでよ」

彼女からの言葉。ありがたかったし、うれしかった。

チケットは長野のMちゃんのところから速達で送られてきた。

 

12日、土曜日。東京グローブ座……

『カンコンキンシアター〜クドい!31〜味方は孫だけ』

そう、関根勤さんが座長を務める、ナンセンスコメディのステージライブ。時事ネタはもちろん、男性でもドン引きするという下ネタも満載、ナンセンス・不条理……なんでもあり。休憩時間を挟んでも4時間近くはあるという、とんでもないはちゃめちゃステージ。

出演者はけっこう豪華で、関根さんを筆頭に、浅井企画所属のタレントさんやオーディションで選ばれた女性演者さんなども入り乱れて、観客を巻き込んでの大騒ぎのステージなんだな(笑)

 

まだ歌舞伎町にシアターアプルがあったころ、一度だけ、Mちゃんと観に行ったことがある。

あの時は、どうしても笑えない部分が多すぎて……それ以来、行ってない。だから、10数年ぶりだよなぁ、カンコンキンも。

 

グローブ座は初めて入った。

ちょっと窮屈かなという感じのスペースだけれど、1階席でもステージが見やすくて、私が座った場所からは1階席の客席が見渡せる。

ぱっと見た目、男性客が多く……でも、女性もけっこうたくさんいらっしゃって、6対4くらいだろうか。年齢層的には、やっぱり少し高め。ちなみに、この日は満員御礼。当日券の発行はなし。

長時間、そして出演者の都合上、日に一度の上演。

グッズもファンにはきっと、ウケるであろう(笑)ものがずらり。今回は、Mちゃんへのおみやげとして、パンフレットを購入。

ほかにも、本業が振付師である出演者のひとり・ラッキィ池田さんの著作『思わず見ちゃうの作り方』(これは真剣に面白そう)や、キャイ〜ン・天野くんの『しあわせレシピ』などもあり、それぞれが直筆サイン入り。Tシャツなんかもあったりする。

そして、開演。仮・本ベル(笑)のあとに、座長・関根勤さんの、

「ほん〜ベルベルベル……」(しゃべってる)

という本ベル(笑)のあとに、いよいよ開演。

 

内容は……割愛させていただく。

あまりにもネタが多く、私の文章では面白さが伝わりきらないと思うので(笑)

 

とにかく、ショートコントが「これでもか!」というように、怒涛のように押し寄せてくる。短いのは1分、長いと30分近く続く。

女性の演者さんにも遠慮なく下ネタをやらせる・しゃべらせることは当たり前、セクハラもどきの発言もある。それ以外でも、かり痛烈な芸能界批判やら、時事ネタ満載。逆に、あまりにもネタが古すぎて、わかる人いるのか?というネタもあり(笑)

ほかには、キャイ〜ンふたりの漫才(これはちょっと珍しい。今じゃなかなか、テレビでは見られないでしょ?)とか、関根さんの近況ショートトークコーナーとか……

 

ネタの内容はともかく(笑)、笑った笑った。久しぶりに、おなかの底から笑ったよ。

何も考えなくていい、目の前にある「笑い」を、ほかの観客と一緒になって笑い倒す。中には、笑えないものとか、あまりの「いじり」にいたたまれなくなったり、ネタにしてほしくないものもあったけれど(苦笑)、それ以外は本当に楽しかったし、笑わせてもらった。

こんなに笑ったの、どれくらいぶりだろうっていうくらいに笑った。

おなかの傷が痛かったし、実際、長丁場だから、途中で持って行った薬を服用しないとならなかったけれど……でも、本当に笑った。

 

グローブ座を出るころには、なんだか気持ちもスッキリ。

「駅で電車に乗るころには、きれいさっぱり、舞台の内容は忘れてくださいね」

と、関根さんがステージ上で話していたけれど(笑)。

少し蒸し暑い中を、新大久保駅へ向かう。

杖をつきながらだけど、少しだけ、足取りも軽くなった気がする。

 

で……はしゃぎすぎたんだろうね。しかも、あんなに長丁場の舞台を観るのも久しぶりだったから、帰りの電車の中でぐったりしたのは、ここだけの話しだ(笑)手足の痺れがきつくて、最寄駅から自宅まで、歩くのにちょっと苦労したよ。

 

Mちゃん、本当にありがとう。

ここしばらくの凹んだ気持ちも、少し、上を向いて、明るくなった気がするよ。

よれよれ……

  • 2017.08.10 Thursday
  • 18:30

去年の今頃からだったかな…ずっと、けふけふと……苦しい呼吸が続くようになっていた。

夏風邪かと思っていたのだが、これが実は、今の病気を知らせる兆候のひとつだったと、今になれば思う。

 

ここ数日、どうも体調が優れない。

天気がぐずついていることも影響していると思うんだが……手の指関節の痛みが酷い上に、まったくやる気が起きない。

わかっちゃいるんだ……これも副作用なんだってことは。

それでも、なんとか言い聞かせて、起き上がり、なんとかやることをやって……そのまま、また身体を横にする。

 

いろんな思いを抱えている。

でも、今は……何も考えたくないなぁ。

 

……ねぇ?

 

なりたい自分になる。

心に蓋をしている部分を少しだけでも……開けてみるべきなんだろうか。

怖いなぁ……

 

あー、また天気が悪いみたいだなぁ。

でも……焦っても仕方ないか。

むしろ、今の状況をちゃんと把握して、身体を、心を休めることを優先しないとなぁ……

 

ぐずついた空を見上げて、ため息。

 

一番の特効薬が効力を発揮してくれるのは、いつのことやら。

「自分をほめてあげて」

  • 2017.08.09 Wednesday
  • 22:53

台風一過、とにかく気温が……体温以上に上がるってどういうことよ……

 

もうどうしようもない。低空飛行気味の自分、どうにかしないと爆発するぞ、これ……

本当はひとつ、強力な「特効薬」があるけれど、それはもう少し時間がかかることはわかっていたので、もうひとつの方法を選択することにした。

 

むちゃくちゃ暑い中、お昼過ぎにバスに乗って、向かったのはいつもの病院。

もちろん、午前中に電話連絡してある。

バスを降りて、広い駐車場の端っこを歩き、正面玄関から中へ入る。

午後の総合病院はだいぶ静かで……私がついている杖の音がやけに響く。

とある診療科の前で待っていると、Kさんがひょこっとやってきた。

Kさんと最初に会ったのは、この病院で主催している、がん患者のためのサロンだった。話しを終えて、帰る時間になっても、放心状態で椅子に座っていたらしい……私を見て、Kさんが声をかけてくださった。私とKさんだけになった部屋の中で、私が初めて、

「疲れちゃった……いろんな意味で」

と呟いた瞬間から、Kさんはずっと、話を聞いてくださって、初めてその場で泣き出した私を、Kさんはずっとそばで話を聞いてくれた。

「どうしようもなくなったらというか、どうにかなる前に、いつでも連絡ください。気持ちを吐き出す場所は大事なんです」

という言葉。

それを信じて、こうして時々、話しを聞いてもらうためにKさんに連絡を取るようになった。しばらく前のブログでも書いたことがあると思うけれど……Kさんは、ふだんは神経内科に常駐している、心理療法士だ。

 

同じことを繰り返して話すクセが少しある私だけれど、Kさんはそれを全部、聞いてくださる。

病気のことはもちろんだけれど、ずっとずっと、抱えてきている、考えている、悩んでいることを、必死に話す。

今の自分の状況とか、実家の件もそうだし、周囲に病気のことを隠していないことやら、それによって生まれるリスクやら……まぁ、詳細は避けるが。

ずっと、心に蓋をしてきた……というよりは、治療に専念していた半年間は、あまり振り返ることもなかったけれど、いざ、こうして一旦、治療を休み、経過観察中の今、いろんな不安や不満などが自分自身にのしかかってきている……で、気持ちが低空飛行気味になる……もともと、ネガティブな思考を持つからというのもあるかもしれない。

嫌でも目に入ってくること、考えてしまうこと……そして、今の病気は、転移・再発が比較的多いことも……不安要素のひとつ。

 

なりたくてなった病気じゃない。誰だってそうだ。

「今の病気になったのは、あなた自身の責任。自業自得でしょ」

というようなことを言われたと、Kさんに話したが、Kさんは言った。

「いるんだよねー。そういうことを平気で言う人って。がんという病気は確かに今はね、それほど珍しい病気じゃないけれど、その単語だけでも、怖いというイメージはあるでしょ?なってみないとわからない……生死にかかわる、直結する病気だからね。誰だってなりたくてなったわけじゃないよ、がんだけじゃないけれど……それにしても、呆れたわ」

 

ありとあらゆることを話す。

気づけば、2時間近く、時間が経過していた。

 

「自分をほめてあげていますか?」

話しの終盤、Kさんはこんなことを言ってくれた。

「たとえば、今回の病気に関して、治療という名前はついているけれど、抗がん剤治療って本当にしんどいって患者さんはいいます。ささなおさんもよくそれは言っていましたよね?まずは、それらを乗り越えた自分をほめてあげていいんじゃないのかな……自分を許してあげるっていうか。たぶん、ささなおさんは自分自身にも妙に足かせをつけてしまうところがあると思うんです。それが逆効果。ね、自分自身を許してあげましょう。まずは、自分の身体に謝って、でも、半年間頑張ってきた身体をほめてあげる。大事なことなんですよ」

自分を許す、自分をほめてあげる……これが、できないんだよ、私。だけど……Kさんの言葉で、完全に涙腺が緩んだ。

声を上げて泣くというのも、私は今まで抑えてきていた。でも、抑えることはないんだよと……Kさんが添えてくれる。

「泣くのはね、心が楽になることも多いんです。特にささなおさんの場合は、泣いたほうがいいかな〜(笑)本当の自分を見せたくないって、ささなおさんはいうけれど、いいんですよ。なりふり構わず泣いたって。だって、こうやって頑張って……あんまり頑張るっていう言葉はいいことじゃないかもしれないけれど……頑張っているんだから」

ずっとずっと、心に蓋をしていた部分が少し、綻びたというか……蓋が少し開いたんだろう。ものすごい勢いで泣き出した。

 

Kさんとの話しは2時間ほど。

「たぶんね、ささなおさんはこうやって時々、話しをしたほうがいいと思うんです。ホントに遠慮しないで、いつでも連絡くださいね。それが私の仕事でもあるんですよ」

と、いつもの笑顔で言ってくださった。

 

相談室を出て、もう一か所、病院内をたずねる。日帰りで抗がん剤治療をしていた、外来治療センターだ。

「あらま、どうしたの〜」

と、看護師のYさん、Tさん、クラークのSさんが私に気づいてくれた。  

「こんにちわ。Kさんのところに来たので……」

「ああ、お話ししてきたのね」

少し、話してきた内容などをYさんにもお話しする。抗がん剤の副作用が今も続いていることも話した。

「いいことだと思いますよ。ひとりで悩むよりは、ずっといい。そのために私たちがいるんだから。Kさんのところはもちろんだけれど、私たちのところにもいつでもいらっしゃいね」

「でも、お仕事の邪魔に……」

「ああ、それはね、気にしなくていいんです。たぶん、Kさんも言っていたと思うけれど、そんなこと言ったら、患者さんたち、治療受けられなくなっちゃうじゃないですか(笑)私たちって、病気の治療だけじゃない、心のケアっていうのも大事なことだと思うんです。そうじゃなきゃ、患者さんたちに向き合えない。だって、人間と人間だもの。いろんな人がいるんだから」

これで涙がこぼれてきた。本当になんて人たちなんだろう。

「副作用はね〜。時間がかかる人もいるから……ささなおさん、かなり強く出ているものね」

抗がん剤を身体に入れているときから副作用が出ていたので、Yさんたちには「痛いよぉ……」と訴えていたっけ……

今のところは、大丈夫ということもあるけれどもしかしたら、ダメ押しの治療が入る可能性も無きにしも非ず。主治医のA先生の判断次第なんだよな。

来週……再診が待っている。

 

Yさんとの話しを終えて、病院の総合受付に戻ろうとすると、救急車の音。ああ、急患さんが運ばれてきたのかな。

この暑さじゃ……熱中症の人もいるだろう。私もペットボトルを持っているし。

ざわつく急患室の前を通り、正面入り口から外へ。

「あつい……」

病院前のバス停で待っていると、すぐにバスが来てくれた。

 

ホントに……今の病院でよかった…

今の先生でよかった。今のスタッフの皆さんでよかった……

 

その気持ちを胸に、バスに乗った。

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