気づけば、今日は12月22日。
卵巣がんの手術から1年が経った。
病院には毎月足を運んでいるが、入院病棟へ行くのは、およそ1年ぶり。
今年の1月の、初回の抗がん剤治療のための入院以来かな。
外来病棟から入院病棟へ行く、長い渡り廊下を通る。その途中には、病院スタッフさんたち手作りのクリスマスリースやら飾りつけやらがあり、そして、病棟の中庭には、やはり手作りの大きなクリスマスツリーが飾られている。談話室から見えるんだよね。
私が入院していたのは婦人科病棟だ。
そーっと、病棟へ足を踏み入れると、金曜日ということもあって、なんだか慌ただしい。入退院のために、看護師さんや看護助手さんたち、そして、清掃スタッフのみなさんが忙しく動いている。
その中を、歩いていたら、看護師さんのひとりが私の顔を見て、立ち止まってくれた。
「あ!ちょっと待ってて!」
というと、スタッフステーションへ一度戻り、それからまた、出てきてくれた。
「お久しぶりー!元気でしたか!」
「わー、Iさん!」
彼女は、最初の入院時の手術当日に就いてくれた人で、また、初回の抗がん剤治療のための入院の時も担当してくれた人だ。
思わずお互いにハグしてしまった(笑)
「その節は、本当にお世話になりました。おかげさまで、今年の10月から仕事にも復帰しています」
「え?復帰したの?大丈夫?」
「あ、はい。まだ痺れとか痛みが残っているんですけれど…」
と、手にしていた杖を見せたら、納得してくださった。
Iさんいわく、やっぱり薬の影響が残ってしまう人は残ってしまうのだそうだ。これは、主治医のA先生も言っていたし、外来治療センターのYさんやHさんも言っていたことでもある。まぁ、覚悟はしているけれどさ。
と、そこに通りかかったのは、A先生。あら、手術用の術衣を着てる。ああ、そういえば、手術室の方面から歩いてこられたんだった……
「あれっ?ささなおさん、今日はどうしたの?」
「あ、先生、こんにちわ。今日は22日なので…」
「ああ!そうだったね、去年の今頃は手術室の中だったっけ(笑)」
「はい(笑)先生、今、手術終わったんですか?」
「うん。今日は午前と午後でふたつ。ちょっと休憩〜」
といって、スタッフステーションの奥へ入って行った。
「年末にも(手術が)入っているんだよねえ……私もそうだったんだねぇ」
と言ったら、Iさんが笑った。
「ささなおさんの場合は、緊急でしたもの。ビフォーアフターがすごかったし(笑)」
「確かにね〜(笑)」
笑って話せることが、本当に嬉しくて。
と、今度は看護師長のKさんが気づいて、こちらへやってきてくれた。ペコッと頭を下げる。
「看護師長さん、お久しぶりです」
「あらまぁ、誰かと思ったら!お元気そうで」
「はい。入院の時は本当にお世話になりました。今も毎月、外来に通ってます」
しばらく、KさんとIさん、私の3人で話しをして、その中で、やはり入院時にお世話になった看護師のYさんが、先月、無事にご出産されたことを聞いた。それまためでたいお話し。ちなみに、このYさんご自身も助産師さんの免許を持っている方でもある。
「1年、経ちましたよ」
その直後、私は言葉に詰まってしまった。じわっと目の前が霞んでくる。
「よかった……私、この病院で。A先生に会って、ここのスタッフさんたちに会って、本当に良かったと思ってます」
「そう言ってもらえると、すごく嬉しいな」
と、Kさん。Iさんもニコニコ笑ってくれている。
「無事に退院した患者さんがね、こうやって顔を出してくれるのが、嬉しいのよ。ささなおさん、なかなか顔をだしてくれなかったでしょ(笑)」
「いやー、お仕事の邪魔になるし」
「あ、それは気にしなくていいんですよ。むしろ、顔を出してくれたほうが安心するんです、私たち」
……ダメだ、もう。
ボロボロに泣き出してしまった。
こんなに大きな病院の看護師さんたちなのに、なんて優しいのだろう。
ここだけじゃない、外来治療センターの人たちもそうだ。そして、いつもお世話になっている心療カウンセラーのKさんも。
すごい嬉しかった。
本当に、この病院でよかった。
がん治療に限らず、患者にとって、病院や医師との「相性」というのは、非常に大事なものだと思う。
幸い、私はこの病院でよかったのだ。
ここを紹介してくださった、開業医のS先生にも、ちゃんとごあいさつに行かなければ……
「まだ1年よ?ささなおさん。まだ先は長いからね」
「はい」
Kさん、Iさんの言葉をしっかり、受け止めて、改めてお礼を言って、病棟を後にした。
1年前、長い渡り廊下を歩くのも大変だった。
手術後、車椅子で放射線科に行ったときのことや、ドレーンが身体に入ったままで歩いたこと。
どうしても、酸っぱいジュースが飲みたくて(手術後から、酸っぱいものを飲みたくなることが増えた。特に抗がん剤治療が始まってからは、それが顕著になる。今現在もそう)、入院病棟からゆっくり歩いて、売店まで行ったこと。あの往復時間が長くて……
外来の総合受付が暗くなってから、ひとりになりたくて、静まり返った総合受付の長椅子に座っていた自分のことを思い出したりもした。
しばらく個室で過ごしていたけれど、手術前日、誰もいなくなった部屋で、泣いたし、手術直後に入ったICUで、痛くて痛くて、眠くならず、しんどいだけで……
1年か……早かったな……
この日、私は思い切って、自分へのご褒美ランチに、お刺身定食にした。
ナマモノも、少しずつ食べられるようになったし、アルコールも無理しないという約束で、A先生からお許しをもらった。
ホント、命を繋いでもらったんだなーと……改めて思った。
個人差はあるというが、私の場合は、まだまだ、月イチの通院は続きそうである。
抗がん剤治療をして、今のところは大丈夫だけれど、でも、再発や転移の怖さはまだ、残っているからね。
ああ、ホントに1年、経ったんだね。