検査入院のために、いつもの病院へ行く。
3度目……である。
まぁ、今回は、一番短い、1泊2日の検査入院。睡眠時無呼吸症候群(SAS=サス、と呼ばれるらしい)の精密検査のためだ。
着替えと洗面用具をまとめて、14時少し前に総合案内の入院受付に行って、手続きを済ませてから、そのままひとりでてくてくと歩いて入院病棟へ向かう。
前回は去年の1月下旬。ちょうど、1年半くらい経っているのか……抗がん剤治療の初回のために入院した時以来だな。
今回は、耳鼻咽喉科の入院なので、いつもの婦人科とは違う階へ行く。
スタッフステーションで名前を言うと、すぐに病室へ案内してもらった。今回は検査の都合上、個室になっている。
見慣れた病室。前回も、前々回も、都合上、やはり個室にいたからなぁ。でも、今回は今までの個室とはちょっと違っていて、シャワールームも完備されている、この病院での個室では上から2番目のランクになっている。基本、この病院の共同シャワールーム(浴室)は16時までしか使えず、今回の検査はどうしても時間がずれてしまうということもあるからだ。ま、その分、差額がすごいことになっているけれどな……(遠い眼)。
荷物を整理して、文庫本とスマホと充電器を移動式のテーブルに置いてから、カバンを備え付けのロッカーに入れて、説明書きを読まずにキーをロックする。慣れたものだわ……(笑)
担当の看護師さんが、おなじみのノートPCを載せたカートと一緒にやってきた。血圧、体温を測ったけれど、あらま……血圧が少し高いぞ?何度かやり直しても、同じような結果になる。体温については、もともとが低体温だから、このあたりは問題なし。3回目ともなると、基本的なデータは電子カルテに入っているようで、いくつか手直しをしたくらいで済んだ。
検査技師さんが来る前に、デイルームへ行ってペットボトルを2本購入。病室は乾燥しているからね。センサーを取り付けられてしまうと、部屋からは出られなくなるんで……シャワーを浴びて、着替えておいた。
16時過ぎに女性の検査技師さんがふたり、来てくれて、センサーをカラダ中に取り付け始める。これだけで30分近くかかってしまった。ホントに身体中にセンサーを張り付けるのよ。特に重要なのは顔面と、喉の周辺だ。
その後、30分ほどおいて、ノートPC(検査用)が正常に稼働していることを確認。これで一晩、データを取る。
ここからは、とにかく時間を潰すことに専念する。
本を読んだり、テレビを観たり……この部屋のテレビは無料で見られるので(これも差額代に入っていると思われる)、しかもBSまで観られるというおまけつき。
「ささなおさん、いる?」
と、声をかけてきたのは、耳鼻咽喉科のI先生だ。
「あ、先生。こんばんわ」
「うん。今日はちょっと辛いかもしれないけれど、データ、とるからね」
回診に来てくれたみたい。
18時に夕食だったのだが、これが見事に油をほとんど使っていないものだった。いわゆる「常食」というものになるんだけれど、確かに薄味ではあるのだが、出汁が効いていて、おいしかったし、分量もちょうどいいくらいだった。
「これくらいの味がいいんだろうなぁ」
などと、声に出して呟いてしまったよ(笑)
21時が消灯時間。
だけど、さすがにまだ眠くならん。いつもだったら仕事から帰宅途中の時間だ。
21時頃、看護師さんに預けていた睡眠導入剤を受け取って、しばらくテレビを観ていたのだが、それを服用して、うとうと……
気づいたら午前2時過ぎ。これも、自宅で寝ている時と同じパターン。必ず、一度は夜中に目を覚ますんだよね。眠りが浅いのは相変わらずみたいだ。
テレビを消して、枕もとのライトを消して、耳を澄ませてみても、聞こえてくるのは、常時ついている換気の音だけ。
室内、真っ暗……まぁ、私にとっては、この暗さが大変、ありがたいのだ。
ふたたび眠気が来たので、うとうと……
次に目を覚ましたのは午前5時半ごろ。
あんまり寝たという気がしないのは、もう仕方ない。身体中に張り付けられたコードとセンサーが気になっていたのも事実だし。
ぼんやりと外が明るくなっていくのを、カーテン越しに見ていた。
自分が、こういう身体になってしまうとは、数年前までは思ってもみなかった。
がん宣告は、あっさりしたものだったけれど、でも、あの時の衝撃はきっと、忘れないだろう。
で、今回もがんと同じく、生命に関わる病気であることは確かだ。皮膚科のH先生も言っていたけれど、SASは発見が遅れることが多いそうで……私はたまたま、治験という「ラッキーなこと」によって、早期発見されたことになる。
朝食は8時なので、その前に看護師さんが朝の検診に来てくれる。
「お、ちゃんとデータ、取れているね」
と、PCを開いて見せてくれた。
「昨夜、見回りに来た時は、それほどいびきは気にならなかったなぁ。思っていたよりは小さかったわよ」
「え?そうなんですか?」
「うん。だけど、ちょっと辛そうだったわね。なにか悪い夢でもみてた?」
「いや……どうなんでしょう(笑)」
体温は、自分にとって少し高めなのは変わらず(ふつうの人は平熱)、血圧は昨日と違って、自分の正常値に戻った。
朝食が来てから、しばらく眺めていると、慌てて看護師さんが飛んできてくれる。
「ごめんごめん、鼻のセンサーを取らないと食べづらいわよね」
鼻の下に入っていたセンサーを取り外してくれた。
あ、牛乳じゃないや、ちゃんとヨーグルトになってる(あと、牛乳まんじゅう?みたいなのがひとつ)。牛乳は好きなんだけれど、牛乳そのものが飲めないという妙な体質をしているので(コーヒーに入れたりシチューに入れたりするのはまったく問題ない)、このあたりは最初の入院の時に栄養士さんにお願いをした覚えがある。ちゃんとデータに入っているんだなぁ。
朝ごはんを済ませると、看護師さんが再度、来てくれて、センサーやコードを取り外しにかかる。わー、身体中、ベッタベタ。頭のてっぺんからつま先まで……えらいことになってるな。
完全に外れてから、データを取っていたPCのシャットダウンまでそのまま。
「これで、解析してもらうんですねぇ」
「そうそう。早めの発見が大事なのよ。SASの治療は長くなることが多いっていうけれど、でも、きちんと対処すればいいことだからね」
「がんと同じですねぇ」
「ああ、そうね……あれ?もしかして、A先生に診てもらってる?婦人科…」
「はい」
「いい先生でしょ?優しくて、穏やかで」
「はい。でも、ここの病院の先生や看護師さんたち、みんないい人たちで…私、ここでよかったと思ってますもん」
「そう言ってもらえると、うれしいなぁ。耳鼻咽喉科のI先生も、一見して豪快だけれど(笑)、すごく丁寧よ。コワモテだから、お子さんたちには泣かれるって、先生も笑っているけれど」
「ああ、なんかわかります(笑)」
などと雑談を交わしているうちに、シャットダウン完了。
シャワーを浴びて、着替えて、ようやく落ち着いた。
その後、一旦、時間外窓口へ行ってお会計を済ませ(土曜日なので…)、再び病室に戻り、忘れ物がないかチェックして、スタッフステーションで手首に巻いていたブレスレット(名前、生年月日、血液型、電子カルテ用のバーコードが入っている)を外してもらって、丁寧にお礼を言ってから、入院病棟を出た。
外来病棟へ降りると、病院内の清掃スタッフさんたちが大忙し。今日は診察はお休みなので、週末は集中的なお掃除をする日だ。
外来診察室のドアや窓が開けられていて、ワックスがけとか、消毒液を含んだ雑巾で丁寧に窓や壁、ドア、机などをふき取っていく。
自動ドアをくぐると……青空。風は強いが、むちゃくちゃ気温が高い。
まだまだ……この病院には通うことになりそうだなあ……
来週末、耳鼻咽喉科の予約が入っている。その時に、なにか説明があるかもしれない。