病気療養中には止められていた、アルコールの摂取だが、確かに酔いやすくなっているのは事実だ。
主治医にも言われているけれど……無理は禁物。禁酒されているわけではないので、気が向いた時に、お気に入りのお店に行って、ひとりで軽く飲んでくる、ということが、楽しみのひとつでもある。
あまり量が飲めるタイプでもないので、まぁ、悪酔いすることもない。ぐでんぐでんになるまで飲むっていうのは、私の美学に反するからね。
となりの街に、お気に入りのパブリックバーがある。
もともとは、とある方からの紹介だったのだが、一度行ったら、ものすごい気に入ってしまって……
営業時間は、15時から翌朝5時くらいまで(始発くらいが目安)、ほぼ年中無休というお店で、クラフトビールが常時、20種類以上、用意されているという、ビール好きにはたまらないお店でもある。
もちろん、ビールだけではない。ワインにウイスキーやスコッチなどがずらっと揃えられていて、基本のカクテルも作ってもらえる。料理も凝っているものが多く、そしておいしい。このお店を経営している会社のメインシェフが、もとは都内某所で料理修行を長くしていたそうで、料理もなかなか、侮れない。
その日は、少し早めにお店に行ってみることにした。
「いらっしゃい……あれ?久しぶりじゃないですか」
とは、バーテンダーのおにいさん。金髪の、ちょっと童顔の彼は、仕事柄もあるのだろうが、お客様の顔を覚えるのが得意だという。
「こんにちわー。うん、明るい時間帯に来るのは初めてだよ(笑)」
「そうですよねぇ。いつも22時過ぎにいらっしゃるのに、めずらしいなとも思いましたよ」
先客は、20代後半と思しき女の子がひとり。この子にも見覚えがあった。向こうも気づいてくれたのだろう。ニコッと笑ってくれた。
「今日は、どれからいきましょうか」
と、メニューを出してくれながら、おにいさんが声をかけてくれる。
「ほんじゃ、ヒューガルデンのレギュラー(サイズ)、お願い」
「かしこまりました」
ヒューガルデン・ホワイトは、ベルギービール。飲み口が軽くて、スッキリしているのが特徴。苦みもあまり感じない。本当は同じヒューガルデンでもロゼがあればよかったのだが、ロゼのドラフトは、なかなか入ってこないらしい。こないだ、飲めたのはラッキーだったのかも。
ヒューガルデンのロゴが入ったグラスになみなみと継がれた、黄金色のビール♪おいしいのよねぇ……
おつまみは、定番のフィッシュアンドチップス(ハーフサイズ)。
「今日のフィッシュはスズキですよ」
「お〜♪」
このお店のフィッシュアンドチップス……特にフィッシュは、その日、市場で仕入れられるものを選んでくるので、どんなおさかながくるのか、すごい楽しみなのだ。ふわっとした舌触り、サクッと食べられるフィッシュに、少し小ぶりなフライドポテト。ケチャップかバルサミコ酢、またはタルタルソースを少しつけていただく。
店内は、まだ静か。でも、20時くらいになると、程よくお客様が入っていて、賑やかなんだよなぁ、このお店。
持って行った、とある小説の文庫を開き、ぼんやりと読みながら、ヒューガルデンを飲んでいたら、あっという間に飲み干してしまった。おっとっと……(笑)ま、レギュラーサイズだったしなぁ。
「そういえば、ささきさん(仮名)、黒ビールお好きでしたよね?」
「うん」
「サンクトガーレンさんって知ってますよね、厚木の……」
「ああ、地ビールの会社」
「そうそう。そのサンクトガーレンさんの、黒糖スイートスタウト、今日、入ってきたんですが、どうです?結構、女性にはウケがいいんですよ。黒ビール好きだったら、ぜひおすすめしたいものでもあります」
「おー!」
それはまたラッキーなことだ。サンクトガーレンさんのフルーツビールは、私も大好き。特に湘南ゴールドビール(春夏限定)!
おにいさんオススメということもあり、これまたレギュラーサイズでオーダーした。
お店の名前が入ったグラス…初めて見たわ。
エールの種類によって、グラスを変えてくれるので、これもまた、楽しい。
「いただきまーす……」
まずは、香り。おお、黒糖だ、確かに、この香りは黒糖。なんでも、沖縄産の黒糖を使っているとか。
おそるおそる、ひとくち、飲んでみる。黒い液体が舌にのった瞬間、思わず唸ってしまった。
……いや、これ、おいしいわ!香ばしい味、黒糖だけれど、甘ったるくはない味で、これは確かに女性にもウケそう。
と、スッと目の前に出してくれたのは、氷入りのグラス。チェイサー。私がすいすいと飲んでしまっているので、おにいさんが心配してくれたみたい(笑)もともと、それほど強いわけじゃないというのを、彼はしっかり、わかってくれているのだ。こういうところも、すごくありがたい。
あまりにもおいしくて、ぼけーっとしていたら、正面玄関のドアが開いて、お店のスタッフのひとり、Mちゃんが出勤してきた。
「おはようございまーす。あ、ささきさん、いらっしゃいませ。ひさしぶりですね!」
「おはよう。うん、先月は来られなかったからさ〜」
それから、先客の女の子と私、バーテンダーのおにいさんとMちゃんで少し話しに花を咲かせる。
「来週、ウチの副店長が誕生日なんで、よかったらその日、遊びに来てくださいよ」
「え?そうなの?」
「副店長、会ったことありますよね?」
「うん」
……みんな、私よりは若いだろうけれど(副店長は同世代)、でも、穏やかで気さくな方ばかり。だから、このお店、気に入ったんだよな。こういうお店は、なくしたくないよなぁ……
ちなみに、このお店、都内にもいくつか店舗がある。
別名義のお店も持っていたりもする。まぁ、よくある形態の飲食店の会社だ。
「ごちそうさま」
「お帰りですか?」
「うん。今日は早めに来て、早めに帰って、ゆっくり寝るよ」
「いいっすねぇ」
お会計を済ませ、あいさつをして、ドアを開ける。
少し気温が低いかな。やっと、秋らしい……11月らしい気温になろうとしているんだろうか。
このお店、駅から歩いて3分もしないところにあるお店でもあるので、すごくありがたい。
また近々、飲みに行こう♪